こんにちは、芸艸堂(うんそうどう)です。

弊社は現在では日本唯一の手摺木版和装本を刊行する出版社です。

この度、1年余りの制作期間をかけ 手摺木版本「北斎漫画」を再版する事になりました。
当時の技術そのままに手摺木版印刷、和綴じ製本にて復刊をする事で、技術継承をしながら
手摺木版版本・北斎の画業を広く知ってもらうきっかけにしたいと思っています。

しかしながら現在の木版印刷の環境は、和紙の製造・木版摺・和綴じ製本の現場で高齢化や
材料不足により技術継承が危ぶまれています。
さらに、制作には紙漉きから製本まで1年以上を要し、なかなか実現する事ができませんでした。
この再版資金をサポートいただきたく、クラウドファンディングのMakuakeに参加することにいたしました。

15編15丁墨版と摺本web用


Makuake 
200年前の江戸の技術に挑む! 手摺木版本「北斎漫画」の再版を実現させたい 

詳細は>>こちら

北斎漫画 全15冊帙入り 150部摺立 ¥324,000

版木:芸艸堂蔵版木(710枚) 技法:手摺木版画 用紙:土佐和紙(須崎半紙)約80000枚使用

和装本(天地238ミリ×左右160ミリ)布製帙入・外函段ボール納め 

総434丁(各冊平均29丁)

別冊解説(和装本1冊)付:永田生慈(葛飾北斎美術館館長)

江戸の浮世絵師 葛飾北斎が描いた版本(木版摺和装本)「北斎漫画」をご存知でしょうか?
北斎漫画15冊

表題に漫画とありますが、現代のマンガとは異なり、元は門下生のために画技を披露したスケッチ
を集めたものです。踊りや相撲をとる人物から幽霊妖怪、風景や行事など3,900余りにも及ぶ図が、
全15編の木版摺和装本として収められています。

北斎漫画書影③
北斎漫画書影

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12編10丁レイアウト用 のコピー


それは遠く海を越え、北斎芸術の真髄「絵の百科全書/ホクサイ・スケッチ」と言われ、19世紀
ヨーロッパの画家たちに絶大な影響を与えました。

北斎肖像 のコピー
葛飾北斎(1760~1849)

90年の生涯を画業一筋に歩んだ、日本を代表する浮世絵師です。

50代半ばで「北斎漫画初編」は出版され、人気が衰えることなく、没後の明治11年に全15編をもって
完結するというロングベストセラーとなりました。

そして今日まで途絶えることなく、様々な印刷方法で出版され続けています。

しかし北斎が伝えようとした芸術性を感得してもらうには当時と同様に和紙を用い、手摺木版印刷の
北斎漫画を見て触れてほしいのです。

それが出来るのは江戸期の発行から数々の版元に移り、現在その版木を保管している
芸艸堂なのです。


版木蔵


伝承する版木について:
名古屋・東壁堂→東京・吉川弘文館→京都・芸艸堂(現在)。
江戸から明治・大正に伝承された東京の版元の浮世絵版画の版木は、関東大震災・東京大空襲で
殆んど消失することになり、文化的にも産業的にも木版業界は大打撃を受けました。そんな情況の
なか『北斎漫画』の版木(710枚)は明治末に京都へ移管されたため、この貴重な版木は失われる
ことなく伝承されました。

永楽堂版木
裏面に「版元 永楽堂書舗」の名前と所在地が墨書きされている版木。

版木の実情:
嘉永刊の14編、明治11年刊の15編は発行時の版木のままです。初編~13編は
江戸期に東壁堂で補刻再刻するが、磨耗が激しいので明治30年代か40年代に
かけて、東京・吉川弘文館でさらに補刻・再刻され伝承されました。

版木の価値(全15冊・全434丁):

『北斎漫画』は木版画の基本である北斎独得の細密な墨の線の墨版(主版)
1丁<見開き頁>を彫るのに、最高技術の親方職人で一ヶ月に4丁が限界だった
と想像できます。都合434丁を彫るのに、100ヶ月余り必要です。四人の職人で
25ヶ月余、約2年かかったことになります。さらに、<淡ねず><肉色>の色版
を一版ずつ合計434丁(710枚 )を彫るので、江戸期の制作時はもとより、明治
年間においてもその時間と費用は膨大であった事が想像できます。

スズメ踊り版木
スズメ踊り版木・他

北斎漫画は墨線と他2色 計3色 3版を用い一枚を仕上げます。版にはとても堅く
歪みが少ない桜の木を使用しています。(縦25センチ×横38~42センチ)

版木の調達:

伝承の『北斎漫画』の版木のうち色版は磨耗により補刻・再刻がされています。
磨耗した版木を削り、そこに再刻します。旧来の版木の表裏を使いますので、
数度の削りにより、厚さ7~8ミリの極端に薄い色版の版木になる場合もあります。
このように多量な版木を調達することが困難を要したことで、費用も膨大であった
ことが想像されます。現在では版木の板を制作する板屋さんが廃業されています。
これだけの桜の板を集めることは不可能に近く、このような版木が明治以来当社に
伝えられてきた事はとても幸なことでした。

薄くなった版木

版本の用紙:

『北斎漫画』の用紙は薄くて丈夫な楮(こうぞ)を原料とした土佐の
「須崎(すざき)半紙(はんし)」を使用します。現在、この半紙を生産する地場は
殆どなく、前回再摺りに用いた漉元も絶えてしまいました。今回の再摺りに際し、
新たな半紙を調合する必要がありました。摺師と何度も試し摺りを繰り返し、
調合をし直した再摺りにふさわしい半紙を調達しました。

用紙画像2(摺上り) のコピー

再摺りに必要な枚数は全15編、各編平均29丁分で約80,000枚必要です。それを
均質で丈夫、かつ薄く漉くのに5ヶ月余を要します。

木版摺り:
通常、錦絵のような多色摺りの木版画を摺る際、バレンで紙背から摺り込む絵具を
定着させ、和紙の狂いを少なくするために、<湿(しと)り>を与えます。
今回の摺りでは、半紙という薄紙に墨色・淡ねず色・肉色の三色を摺り込む版本の
摺りなので、<湿り>を与えずに、各色を摺りかさねていきます。

骨板に地墨をおく のコピー
版木肉
見当にあわせて紙を置く のコピー
バレンで摺る
馬連 のコピー

墨版による墨摺りが全ての基本です。薄い半紙にバレンの力加減一つで、北斎独得の
筆線のタッチを均質に定着させる技術が妙味といえます。よって限られた摺師達に
よって再摺りすることになります。
摺師②
摺師 のコピー
北斎漫画書影③

製本:
摺りあがった版画は経師(きょうじ)と言われる職人の手で1冊ずつ、製本していきます。
経師も現在では数名を残すのみとなっています。

製本 圧
摺りあがった版画を丁ごとに折り、圧をかけます。
製本021 のコピー
ずれのないよう仮どめし、糸を通していきます。
製本011 のコピー
製本①
製本②
北斎漫画書影


芸艸堂(うんそうどう)

明治24(1891)年京都で創業した美術書の出版社であり木版画の版元です。芸術の「芸」と「草」
の旧字体「艸」で「うんそう」と読みます。本来 芸は「うん」と読みました。やがて「うん」
という読みが無くなり芸術の「藝」の略字となったのです。これは芸香(ウンコウ)という草の
名前です。洋名はヘンルウダという柑橘系の香りのする草です。当時は、紙を食べる紙魚(シミ)
という虫をよけるために栞として使われていました。和紙など紙を扱う会社であることからこの
草の名前を明治・大正期の文人画家・儒学者の富岡鉄斎(1837-1924)に命名していただきました。

店舗(創業時)
店舗(現在)


現在 紙が順次漉き上がり摺師の元で摺が始まっています。完成は2016年12月末を目標に
制作中です。ぜひこちらのサイトをご覧いただきご支援いただければ幸いです。




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