こんにちは。芸艸堂(うんそうどう)です。
芸艸堂は大正時代に『綾錦』という本を手掛けました。
旧・西陣織物館では、当時、古近代の名物裂や参考品が陳列されており、
大正天皇御大典記念として内外古今の織染物刺繍の名品を高度な印刷技術
を用いて記録する事が企画され、木版摺で再現した全集です。
その装幀は、各巻ごとに誂えた西陣織の表装裂、組紐による綴じ紐など、
造本にこだわったものです。精巧鮮麗を極めたこの版画全集は
名人にしか摺る事ができませんでした。
当時京都の主な呉服商が必ずお持ちのこの本は、本そのものが
工芸品といって過言ではありません。
発行していた大正期でも当事の価格で全巻660円
(今日の物価で50~60万円)の豪華本でした。
第1巻 内外古代織染物刺繍類
第2巻 時代服装類
第3巻 室町時代舞楽装束、名物裂間道
第4巻 支那印度地方染織物刺繍類
第5巻 夏に因める織染物刺繍類
第6巻 古代能衣裳類
第7巻 古代刺繍類
第8巻 古代更紗類
第9巻 古代支那印度地方織物刺繍類
第10巻 古代織物打敷袈裟の類
大正5~14年にかけて発行された全10巻、各部200部発行。
第7巻表紙
知る人ぞ知る『綾錦』ですが、学術的な調査は今までされてきませんでした。
そこで、2020年 東京国立近代美術館(国立工芸館)の学芸員中尾優衣様により
公益財団法人ポーラ美術振興財団の助成を受け、掲載された染織品や模写した
図案家達の事など、『綾錦』に関する様々な調査が行われました。
当社は所蔵する『綾錦』の版木を使って現代の摺師が印刷を再現する調査協力
が始まりました。
再現する摺師は平井恭子氏(佐藤木版画工房)
師匠の佐藤景三氏がサポートし、再現する図版を第7巻の19の
《刺繍扇、梅花模様裂》としました。
まずは版木蔵で対象の版木を探します。
版木蔵の棚には、ぎっしり『綾錦』の版木が入っています。
大正期から一度も再版してない版木の積年の埃を吸い込みながら、4人でほぼ
1日を費やして、捜索と整頓の作業を続けました。
版木を見つけた後、摺師は「版木」と「原稿の写真」「摺り見本の当社備付見本」
を見比べながら、経年劣化で飛んだ色の確認や布を再現するための摺り方の
工夫を、打ち合わせます。
師匠は下準備として和紙にドーサを引きます。
和紙にそのまま絵の具を載せると滲んだり、和紙が版木に張り付くため
「明礬と膠とを混合した液」を「滲み止め」として和紙に引くのです。
この濃度が摺師によって違うので各人摺りやすい濃度を調合し、引いていきます。
摺師の技量プラス感覚が必要な“ぼかし”や“浮かし”により、馬連以外にタンポなど
を用い、絹地の風合いや刺繍糸の立体感を再現していきます。
毛タンポで版木に絵具をつける
馬連でこする
版木にグラデーションになるよう絵の具を載せる。
タンポ・布を使って金糸の再現。
版木は7枚、裏表彫られ16版の板を使い32度様々な道具を使い
重ね摺りして完成しました。
摺師の再現度は高いものでしたが、今回の再摺りは1点のみでした。
ほとんどのページが木版印刷だった『綾錦』を見返す度に、当時の
本造りのプロ達の技術の高さを再認識します。
これからも引き続き中尾先生のご研究に協力しつつ、
摺師達の技術の進化に繋げたいと思います。
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芸艸堂は大正時代に『綾錦』という本を手掛けました。
旧・西陣織物館では、当時、古近代の名物裂や参考品が陳列されており、
大正天皇御大典記念として内外古今の織染物刺繍の名品を高度な印刷技術
を用いて記録する事が企画され、木版摺で再現した全集です。
その装幀は、各巻ごとに誂えた西陣織の表装裂、組紐による綴じ紐など、
造本にこだわったものです。精巧鮮麗を極めたこの版画全集は
名人にしか摺る事ができませんでした。
当時京都の主な呉服商が必ずお持ちのこの本は、本そのものが
工芸品といって過言ではありません。
発行していた大正期でも当事の価格で全巻660円
(今日の物価で50~60万円)の豪華本でした。
第1巻 内外古代織染物刺繍類
第2巻 時代服装類
第3巻 室町時代舞楽装束、名物裂間道
第4巻 支那印度地方染織物刺繍類
第5巻 夏に因める織染物刺繍類
第6巻 古代能衣裳類
第7巻 古代刺繍類
第8巻 古代更紗類
第9巻 古代支那印度地方織物刺繍類
第10巻 古代織物打敷袈裟の類
大正5~14年にかけて発行された全10巻、各部200部発行。
第7巻表紙
知る人ぞ知る『綾錦』ですが、学術的な調査は今までされてきませんでした。
そこで、2020年 東京国立近代美術館(国立工芸館)の学芸員中尾優衣様により
公益財団法人ポーラ美術振興財団の助成を受け、掲載された染織品や模写した
図案家達の事など、『綾錦』に関する様々な調査が行われました。
当社は所蔵する『綾錦』の版木を使って現代の摺師が印刷を再現する調査協力
が始まりました。
再現する摺師は平井恭子氏(佐藤木版画工房)
師匠の佐藤景三氏がサポートし、再現する図版を第7巻の19の
《刺繍扇、梅花模様裂》としました。
まずは版木蔵で対象の版木を探します。
版木蔵の棚には、ぎっしり『綾錦』の版木が入っています。
大正期から一度も再版してない版木の積年の埃を吸い込みながら、4人でほぼ
1日を費やして、捜索と整頓の作業を続けました。
版木を見つけた後、摺師は「版木」と「原稿の写真」「摺り見本の当社備付見本」
を見比べながら、経年劣化で飛んだ色の確認や布を再現するための摺り方の
工夫を、打ち合わせます。
師匠は下準備として和紙にドーサを引きます。
和紙にそのまま絵の具を載せると滲んだり、和紙が版木に張り付くため
「明礬と膠とを混合した液」を「滲み止め」として和紙に引くのです。
この濃度が摺師によって違うので各人摺りやすい濃度を調合し、引いていきます。
摺師の技量プラス感覚が必要な“ぼかし”や“浮かし”により、馬連以外にタンポなど
を用い、絹地の風合いや刺繍糸の立体感を再現していきます。
毛タンポで版木に絵具をつける
馬連でこする
版木にグラデーションになるよう絵の具を載せる。
タンポ・布を使って金糸の再現。
版木は7枚、裏表彫られ16版の板を使い32度様々な道具を使い
重ね摺りして完成しました。
摺師の再現度は高いものでしたが、今回の再摺りは1点のみでした。
ほとんどのページが木版印刷だった『綾錦』を見返す度に、当時の
本造りのプロ達の技術の高さを再認識します。
これからも引き続き中尾先生のご研究に協力しつつ、
摺師達の技術の進化に繋げたいと思います。
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